階層的データ分析のための、統計分析プログラムです。
HADについては別の記事にまとめてますので、そちらを参照してください。なお、最新版HADの機能一覧についてはHADでできることのほうを参照してください。
また、ダウンロードはここです。 階層データ分析用マクロ
以下の機能はHAD7.2について書いてあります。
1.個人・集団レベルの相関行列の出力
この機能が目玉の1つです。これはKenney & LaVoie(1985)の集団レベル相関を出力するオプションです。計算方法は豊田(2000)で紹介されているの2段抽出モデルの簡便法を用いてますが、結果は一致します。
集団レベル相関とは、グループの平均値を算出することなく、集団の性質を示す変数間の関連を表したものです。集団凝集性といった集団レベルの概念をモデルに組み込みたいときは有効な指標です。
HAD7.2で有意性検定を実装しました。Mplusなどのソフトウェアの結果をほぼ再現します。 なお、「簡便法用共分散行列」をAmosに入力した場合、SEMが出力する集団レベル相関の有意性検定は正確ではないので、参考にしないでください。
モデリングしたパスの有意性検定を行うには、簡便法でない二段抽出モデルを行う必要があります。下の方法を使うことで有意確率を知ることができます。相関係数だけならこのマクロで検定を行うことができます。
2.マルチレベル用共分散行列(MUML)の出力
上の方法では相関係数しか知ることができませんが、このオプションで出力される共分散行列をAmosで適切に分析することでSEMによるモデリングとその有意性検定をすることができます。 詳しくはこちらの記事を参照してください。
3.信頼性分析
選んだ変数の内的一貫性の信頼性係数を出力します。指標は、α係数、ω係数、因子得点の信頼性係数を出力します。あと、一因子モデルによる因子分析結果を一緒に載せています。 またマルチレベルデータの場合、測定誤差を取り除いた集団レベルと個人レベルの分散比率とその有意性検定の結果を出力します。
4.ペアワイズ相関分析
ペアデータに特化した、マルチレベル分析であるペアワイズ相関分析の結果を出力します。 また、それに関連した共分散行列、データセットを出力します。 ペアワイズ相関分析については、こちらの記事を参照してください。
5.級内相関係数と級内α係数の出力
グループ内の類似度を示す、級内相関係数を出力します。 また、グループ内の平均値を得点として用いてよいかの指標である、級内α係数も出力します。級内α係数が低いときにグループの平均値を算出してしまうと、誤差が大きくなり、相関が希薄化したり検定結果がゆがんだりします。詳しくはこちら。
あと、グループ内の人数の平均サイズ(ω)も出力します(豊田, 2000 参照)。
6.データの変換(センタリング、標準化、合成得点)
HLMをする場合にクラスごとにセンタリングする必要があるのですが、そのグループ内平均・全体平均によるセンタリングデータや、グループ平均を出力します。 また、複数の変数の平均値や因子得点などの合成得点を出力します。あとオマケに得点を標準化する機能もつけてます。
7.共分散行列と相関行列の出力
いわゆる、普通の共分散行列と相関行列を出力します。ポイントはAmosにそのまま入力できるように出力するところで、エクセルのシートを指定してやれば、SEMにそのまま持っていけます。 HAD5から、相関係数の有意性検定を行う出力も付け加えました。
8.欠損値処理
HAD5.1から、データセットの欠損値をペアワイズ削除とリストワイズ削除のどちらかを選ぶことができるようになりました。それに伴い、各種データセット出力も同様に二つの方法のどちらかを選ぶことができます。 ペアワイズ削除は、変数のペアごとに欠損があるデータを省きます。リストワイズ削除は、選んだ変数のうち一つでも欠損があればサンプルごと削除します。
9.その他
「マルチレベル分析」のチェックをはずすと、普通の共分散行列や相関行列の計算が速くなります。普通のデータ分析をしたいだけのときは、チェックをはずすことをオススメします。 使い方については↓
使い方
1.データ入力
データをエクセルのシートに入力。 1行目は変数名をいれて、2行目からデータを入力してください。また、データはB列から順番につめて入力してください。 最初の列(B列)は必ずグループを判別する変数(以後、ID変数)を投入してください。なお、ID変数は同じグループのデータを連続するように入力してください。 グループ内の人数は一致してなくても大丈夫です。
データ入力例
↓
2.マクロ起動
一番左にある起動ボタンを押せば、起動します。 変数の数は、B列から数えて分析に使う変数の数を入力してください。つまり、ID変数も含むということです。上の例だと5を入力すればいいことになります。 あとは出力したいオプションにチェックをしてOKを押してください。
3.出力について
すべてのオプションは新規シートを作成して出力します。 同じ出力をもう一度した場合、シートは上書きされますので、残しておきたいときはシート名を変更してください。
モデル用共分散行列はAmosに入力できるようになっています。Amosからファイルを指定して、シートを選べばすぐに分析できます。変数名_wが個人レベル、変数名_bが集団レベルの変数です。
上にも書きましたが、この簡便法を用いたときは、有意性検定の結果が正しくありません(タイプⅠエラーを犯します)。推定値だけを知りたいときに活用してください。
いくつかの注意点
1.データ入力について ID変数以外に文字データを入力するとプログラムがエラーを出します。面倒なのでその辺の識別をしていません(HAD7.2で対応しました)。必ず数字かピリオドのみを入力してください。 また、クラス内の人数がすべて1(クラス数=1)の場合、入力エラーになります。
2.計算方法について 級内相関と各行列の計算は、方法を2つから選べます。 モーメント法・・・Kenney & LaVoie(1985)の方法です。2段抽出モデルはこっちに一致します。 最尤推定値・・・Gollob(1991)の方法です。Griffin & Gonzalez(1995)のペアワイズ相関分析はこれに一致します。HAD5以降では選択できません。
3.Between.covの出力について このマクロが出力するマルチレベル用共分散行列のBetween.covは純粋な集団レベルの共分散行列ではなく、集団平均の共分散行列です。これは二段抽出モデルを行うために必要なデータセットです。ですので、これを用いて普通に分析しても希薄化した値しか得られません。
4.Amosがシートを読み込んでくれないとき 次の理由が考えられます。 ・セルの書式設定をいじった ・共分散が大きすぎて1次従属であると判断された なぜかAmosはセルの書式設定をいじくると読み込んでくれません。いじらないでください(笑)。 あと、集団レベル相関は、級内相関が小さいと1を超えるときがあります。このようなときはAmosは分析してくれません。級内相関が低すぎる変数や、相関が高い変数ペアを省いて分析しなおしてみてください。
引用文献
Gollob, H. 1991 Methods for Estimating Individual- and Group-level Correlations. Journal of Personality and Social Psychology, 60, 376-381.
Griffin, D., & Gonzalez, R. 1995 Correlational Analysis of Dyad-Level Data in the Exchange Case. Psychological Bulletin, 118, 430-439.
Kenney, D. A. & La Voie, L. 1985 Separating individual and group effects. Journal of Personality and Social Psychology, 48, 339-348.
豊田秀樹 2000 共分散構造分析 応用編 朝倉書店
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