この記事では,調整媒介分析と,それをHADで実行する方法について書きます。この記事を読まれる前に,媒介分析についての記事を参照ください。
調整媒介分析とは?
調整媒介分析とは,moderated mediation analysisと呼ばれ,媒介分析が別の変数によって調整されるような場合を想定したモデルです。
この辺りについては,村山航さんの説明が詳しいので,そちらも合わせて参照してください。あと,Preacherが調整媒介分析について詳しく書いています。こちらの論文もぜひ読んでみてください。とてもわかりやすいです。
さて,調整媒介分析は,媒介分析のモデルに,調整効果をいれるわけですが,まずは基本となる媒介分析として以下の様なモデルを考えます。
それに対して,調整変数が加わるのですが,調整変数はパスaとパスbの効果を調整すると考えます。一応,cに対する交互作用効果も推定しますが,cが調整されても調整媒介とはなりません。
そのことを図で書くと,こんな感じです。
ただ,実際に推定するときは,調整変数の主効果もモデルに含みます。それでは,実際にどうやって調整媒介分析を推定するのかについて解説します。
調整媒介分析の推定
調整媒介分析では,2つの回帰モデルを同時に推定します。まずは媒介変数を目的変数としたモデル,そして従属変数を目的変数としたモデルです。
ひとつめのモデル(モデル1と呼ぶ)は,次のような式になります。
媒介変数 = 切片 + 独立変数 + 調整変数 + 独立変数*調整変数 + 残差
このように,独立と調整の各主効果,そして2つの交互作用効果が入ります。
続いて,ふたつめのモデル(モデル2と呼ぶ)は次のようになります。長くなるので「変数」を省略します。
従属変数 = 切片 + 独立 + 媒介 + 調整 + 独立*調整 + 媒介*調整 + 残差
このように,独立と媒介と調整変数の主効果,そして調整変数と他の変数の交互作用効果を入れます。
あとは,調整変数の平均±1SD(別に1SDじゃなくてもいいけど慣例的にはこれが多い)の点における間接効果をそれぞれ推定してやれば,調整媒介分析となります。
間接効果は,モデル1の独立変数の主効果と,モデル2の媒介変数の主効果の積で推定されます。なので,モデル1における独立*調整の交互作用効果と,モデル2における媒介*調整の交互作用がそれぞれ,間接効果を調整することになります。
モデル1とモデル2それぞれで調整効果の値を動かしてそれぞれ推定して,間接効果を計算してやれば,調整変数が高い時と低いときの間接効果が求まるというわけです。
このように,推定自体はただの回帰分析なので,Rなどを使えば簡単に計算できると思います。ただ,標準誤差の計算やブートストラップ信頼区間などは若干面倒ですが,それもHeyesがSPSSのマクロなどが公開されているので,難しくはありません。また,以下に述べるようにHADでも実行できるようになりました(ver14.3以降)。
HADによる調整媒介分析
HAD14.30から調整媒介分析が実行できるようになりました。HADによる媒介分析の方法は,こちらの記事にあるので先にそちらを参照してください。
まずHADで媒介分析のためのモデリングスペースを開きます。そして,例えば次のようにモデルを指定します。ここでは,満足度が従属変数,発話量が媒介変数,条件が説明変数です。
そして,スライスのところに集団成績が入っています。これが調整変数となります。
HADでは,調整媒介分析を実行するのに,交互作用項は入れなくて大丈夫です。上のように媒介モデルと調整変数を指定するだけで,内部で自動的にうえで説明した2つの回帰モデルを実行してくれます。
この状態で「分析実行」を押すと,分析が始まり,3つのシートが出力されます。Mediは調整変数が平均値のときの媒介モデル,Medi_highは調整変数が+1SDのとき,Medi_lowは-1SDのときの媒介モデルです。
次のような出力が得られます。
このようなパスモデルが平均,高群,低群の3つ出力され,調整変数が高い時と低い時とで媒介モデルがどのように変わるかがわかります。