HAD12.0をアップしました。HADについてはこちらのページを参照してください。
HAD12では,マルチレベル構造方程式モデリング(以下MLSEM)が実行できるようになりました。
また,これまでソルバーを使わないバージョンを10.5シリーズとしてアップしていましたが,HAD12からは,ソルバーオフバージョンとして用意しました。HAD12offというファイル名のものです。オフバージョンはソルバーが入っていないPCでも動きますが,構造方程式モデルやMLSEMは実行できません。MLSEMを使いたい場合は,ソルバーがオンになっている通常のHAD12をご利用ください。
以下では,MLSEMについて解説します。
◆MLSEMとは
MLSEMは,階層的データ(集団の中に個人がネストされているようなデータ,あるいは個人が反復測定されているようなデータ)を扱えるようにしたSEMです。マルチレベル構造方程式モデルについては,こちらの記事を参照してください。
HADでは,Muthen最尤法(MUML)と呼ばれる,標本共分散行列を用いたMLSEMを実行します。MUMLは,ローデータを用いる完全情報最尤法(FIML)によるMLSEMよりも不効率な方法ですが,欠損値がなく,グループ内の人数がすべて等しい場合はFIMLと等しい推定量となることが知られています。ただし,MUMLでは欠損値推定や頑健標準誤差の推定ができません。また,ランダム係数の推定もできません。一方,計算負荷が小さく,計算速度も早いです。
MUMLを用いたMLSEMはAmosでも可能ですが,とても面倒な処置を施す必要があります。興味がある人はこちらの記事を参照ください。
◆MLSEMの実行方法
HADのMLSEMは,構造方程式モデルの中に入っています。基本的な推定方法は通常の構造方程式モデルと同じなので,先にそちらを確認してください。
「モデリング」シートの上部にある「因子分析」をチェックして,その中にある「構造方程式モデル」をチェックします。すると以下のような画面になるので,分析法を「マルチレベル」にチェックします。
「マルチレベル」をチェックした状態で,「モデルシート」ボタンをクリックすると,以下のような画面が表示されます。
変数の頭に「W」と「B」がついているのがわかると思います。WはWithinレベルの変数,BはBetweenレベルの変数であることを意味しています。データの階層性が集団と個人である場合,Withinレベルは個人レベル,Betweenレベルは集団レベルに該当します。
MLSEMでは,WithinレベルとBetweenレベルをそれぞれモデリングします。ただし,Withinレベルの変数とBetweenレベルの変数間にパスや共分散を仮定することはできません。仮に推定したとしても,0となります。
また,級内相関が1の変数はWithinレベルの情報を持っていないので,Withinレベルにおいてほかの変数とパスや共分散を仮定することができません(推定しても0になります)。また同様に,Betweenレベルの分散が0である変数についても,Betweenレベルにおいてパスや共分散の推定はできません。
MLSEMでもパス図モードを利用できます。WithinレベルとBetweenレベルをそれぞれモデリングすると,以下のようになります。なお,このデータでは「集団成績」はBetweenレベルの情報しかないため,Withinモデルではパスや共分散を仮定しても0になります。
この状態で推定すると,以下のような結果が出力されます。
HADのMLSEMでは,通常のSEMと同様,パスの制約や間接効果の検定などは可能です。ただし,欠損値の推定や多母集団分析は実行できません。