潜在ランク理論について

 
 

 

潜在ランク理論とは,大学入試センターの荘島宏二郎さんが開発した,統計手法です。荘島さんのWebサイトにも,潜在ランク理論についての解説が載っています。

潜在ランク理論は,もともとテスト理論として開発されました。テスト理論とは,学力テストのような,能力を査定する道具の性能を評価したり,能力を推定したりするための統計的な理論を指します。有名なテスト理論としては項目反応理論などがあります。

テスト理論としての潜在ランク理論は,テスト得点による連続的な能力評価に対して,段階的な順序的な能力評価を提案している点に特徴があります。テストは100点満点で,1点間隔で表記されることが多いですが,実際運用されているテストは,1点や2点の違いを識別するほど信頼性は高くありません。つまり,実際の測定誤差に目が向けられることなく,点数がつけられてしまっている側面があります。それに対して潜在ランク理論では,学力を順序尺度によって評価にします。それによって,能力評価はおおざっぱになりますが,信頼できない1点にむやみに踊らされることもなくなる,というわけです。また,段階評価にすることで,到達度などを質的に記述することができる,という点もメリットがあります。

テスト理論としての潜在ランク理論の思想についてのは潜在ランク理論のページを見てもらったらわかると思うのですが,この記事では心理尺度への適用について書きます。

 

潜在ランク理論とは

上のような思想のもと,潜在ランク理論(LRT)は作られたわけですが,統計的な性質について簡単に説明しておきます。

LRTは,説明の仕方としては,大きく分けて2通りあると思います。一つは,項目反応理論から,一つは,クラスタ分析や潜在クラス分析から,です。

項目反応理論(IRT)から見れば,LRTは,潜在特性を順序尺度にしたIRTであるといえます。通常のIRTでは,潜在特性は標準得点であることが仮定され,連続的に能力を推定できます。それに対して,LRTでは潜在的な順序得点を仮定して,回答者が各ランクに所属する確率を推定します。それ以外はIRTとほとんど同じで,IRTのように項目特性(識別力や困難度)も推定できます。

クラスタ分析,あるいは潜在クラス分析(LCA)から見たら,LRTは順序性のあるグループに回答者を分類する分析,といえます。LCAなどは潜在的な母集団を仮定して,それぞれに所属する確率を回答者ごとに推定しますが,LRTはその潜在的な母集団に,順序性が仮定されます。よって,能力の高いグループ,次に高いグループ・・・という感じでグループを解釈できます。

また,IRTやLCAと同様に,データは2値,あるいは順序データであることが仮定されます。連続変量の場合も可能のようですが,まだ理論的に実装されていないようです。

 

心理尺度に対して潜在ランク理論を適用する

 清水・大坊(2014)では,精神的健康調査票(GHQ)に対して,LRTを適用しました。

 →岡山理科大学で発表した資料も参照してみてください。

GHQとは,ストレス症状やうつ症,身体的疲労など,幅広い健康状態を測定するための質問紙調査票です。60項目あります。清水・大坊では,GHQを940人を対象に実施し,LRTを適用しました。その結果,GHQは4段階で評価するのが当てはまりがよいことがわかりました。なお,ランク1が最も健康で,ランク4が最も不健康という指標化を行いました。

従来60段階で評価されていたものを,たった4段階で評価することは,大きく情報を損なっているように思います。しかし,人生満足度や精神疾患の有無などとの順位相関係数は,60段階でも4段階でもほとんど変わりませんでした。

また,これまでスクリーニングに使われていた,16/17点間は,4段階評価においてランク1とランク3を二分するポイントであることもわかりました。一方,ランク2は健康的な人も所属する一方,場合によっては介入が必要な人も所属する,グレーゾーンであることがわかりました。これらのことから,従来の二分法的なスクリーニングに比べ,段階評価のほうがより柔軟なアセスメントが可能であることがわかりました。

潜在ランク理論は,潜在クラス分析と異なり,潜在グループに順序性を仮定することから,回答者の症状を段階ごとに分類することができます。また,IRTのように連続得点ではなく,4段階という少ない段階で評価するので,フィードバックなどにおいてもクライアントにわかりやすいといえます。たとえば,標準得点で0.8点ですと言われるよりも,4段階で3段階目ですと言われたほうが,一般の人にわかりやすいでしょう。

また,LRTは短縮版尺度を作成する場合にも同じ順序段階を適用できます。なので,GHQ28でも,GHQ12でも4段階で評価が可能です。

 

潜在ランク理論の可能性

潜在ランク理論は,個人差を正確に推定するための統計モデルというよりは,現場で使いやすい段階評価を可能にする,実践的統計モデルといえます。

少ない段階で評価することで,症状や成績などを段階ごとに質的に記述することができるようになります。たとえば,ランク1の人は健康な人,ランク2の人は社会的な活動に障害がある,ランク3の人は不安状態が高い,といったようにです。

また,マーケティング分野において,ロイヤリティのランク分けを行うことで,それぞれのランクごとに異なる戦略を用いると効果があるといったように,実用的な知見が得られ可能性があります(相馬・清水など)。

まだ心理学ではほぼ用いられていない方法論ですが,臨床心理学やマーケティング分野などで活躍するであろう手法であるといえます。

 

引用文献

清水裕士・大坊郁夫(2014).潜在ランク理論による精神的健康調査票(GHQ)の順序的評価 心理学研究, 85, 印刷中.

相馬敏彦・清水裕士 (2013).ワンランク上のブランド・コミットメントを導くために 拡張型投資モデルをブランド-顧客の関係性に応用して 日本心理学会第77回大会発表論文集, 1174.

 

 

 
 
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