松浦健太郎さん(@berobero11)さんから,ご著書である「StanとRでベイズ統計モデリング」を恵送いただきました。
共立出版
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松浦さんは日本でおそらくもっともStanに詳しく使いこなしている(そして情報を発信している)方です。その方が書かれたStan,そして統計モデリングの入門書です。
本の構成などについては,著者ご本人がブログにまとめてるのでそちらを見たほうが早いと思います。
→松浦さんのブログ記事
ここでは,このブログの読者に多いであろう心理学(とその周辺)関係の人向けに本の紹介をしたいと思います。
本の特徴
この本は,Ⅰ部で統計モデリングについての導入,Ⅱ部でStanの入れ方,基本的な使いかたについての入門,Ⅲ部ではStanを実践的に使っていく上で有益な情報が入っています。
Ⅰ部はあとにも書きますが,とても重要な事が書かれているので,Stanが興味がない人でもぜひ読んで貰いたい部分です。統計モデリングの考え方に書かれている3章は特にいいです。
全体的に,文系の人でも(かろうじて)理解できるレベルの数式,Stanを触ったことがなくても実行できるレベルのコード,平易な文章,という感じで,とっても敷居が低くなっています。大学院生なら十分読めると思います。数式については後述します。
そしてStanをバリバリつかってまっせ,という人にとっても有益な情報がたくさんあります。9章,10章あたりは,かなり実践的です。たとえばStanのプログラミングのコツや変数の型の説明,事前分布をどうしたらいいか(弱情報事前分布とか),コードをどう工夫したらスピードアップするか,などなどです。
オススメの読み方
Stanを使ったことがないけど,ベイズ統計モデリングに興味あるなーという方は,まずはⅠ部を熟読して,Ⅱ部を実際にStanを立ち上げながらゆっくり読んでStanに親しむ,という読み方がいいと思います。Ⅲ部はStanでいろいろやってから読んでも遅くはないです。
ついつい「良うわからんけど,StanいれたいからⅡ部からでええか?」と思ってしまいがちですが,Ⅰ部はぜひぜひ読んで下さい。ここを読まないとStanやる意味もないぐらい重要な事が書いてます。特に3章。統計モデリングとはなんぞや,ということについてとても大切なことが書かれています。
Stanをすでに使ったことがある人は,Ⅰ部を読んだ後,それぞれのレベルに合わせてかいつまんで読んでいくといいかと思います。オススメは6章の分布の紹介,7章の回帰分析周りの応用,10章の収束しないときのトラブルシューティングあたりでしょうか。
階層モデルが実はよくわかってないんだ・・・という人は,8章をじっくり読んでいくといろいろ視界が開けると思います。ちょっとずつモデルが複雑になっていくというプロセスは,本書の「モデルはまずは簡単なところから」という趣旨とも合っていてとてもわかりやすいです。
心理学では階層モデルが頻繁に出てくるので,ぜひ8章をゴールと思って読んでみてください。8章が理解できるころになったら,9と10章にものすごい有益な情報が転がってるので,そこでまた興奮してください(謎)。
11章と12章は,心理学をやってる人はあまり使わないと思うので,理解できなくても問題はないです。でも,知らないモデルを勉強することはいろいろ視野が広がるのでぜひチャレンジしてみてください。
個人的によかったところ
僕的には2章,3章がとてもいいなと思いました。特に3章。統計モデリングの考え方がよくわかります。
後は10章の弱情報事前分布話,11章の離散パラメータの周辺化の話なんかはためになりました。12章は僕もまだよくわかってないところがあるので,これからよく読んで(あと他の資料も勉強しつつ)理解したいところです。
この本を読んだら・・・・
とってもいいタイミングですが,今年度の3月14日に日本社会心理学会がベイズ統計モデリングをテーマに方法論セミナーを開催します。
以下,会報から抜粋
第4回日本社会心理学会春の方法論セミナー
「効果の科学からデータ生成過程の科学へ~心理学者のためのベイジアン・モデリング入門」
2017年3月14日(火)上智大学
岡田謙介(専修大学・心理統計学)
国里愛彦(専修大学・計算論的臨床心理学)
清水裕士・竹澤正哲(新規事業委員会)
『最近、ベイズ、ベイズと世間がやかましい。でも正直な話、それを学んでどれだけ役に立つのだろうか』―そんな疑問を持つ方のためにデザインされたセミナーです。ベイジアン・モデリングをキーワードとし、ベイズを使うことの意義、ベイズが科学における新たな方法論であること、そして臨床心理学を例とした具体的な応用例を、とにかく分かりやすく紹介します。MCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ)という言葉はとにかくカッコイイと感じる方、そろそろベイズの全体像を把握したい方、心理学って効果の有無を問うだけで良いのか、と悩まれている方。多様な関心を持つ方々の期待にお答えします
ぜひ本書を読まれた上で,このセミナーに参加してみてください!Stanを使った,心理学的研究における実践例も出てくる予定です。
数式について
僕も実はそうですが,文系出身で数学を高校のときにちゃんとやってない人は,この本の数式でも「うわわわわ」と思ってしまうかもしれません。ベクトル,行列とかはたしかに馴染みがないかも。線形代数とかは文系の人習わないもんね。あと積分記号が出てくると,「ぞわ」ってしますね。
しかし,この本で出て来る数式は,ただの記号としての数式で,ほとんど「演算」は出てこないのです。なので読み方が理解できたら,あとはスラスラ読めます。英語が喋れなくても読める人が多いのと同じで,数式を自分で書く,展開するということができなくても,読むだけなら簡単です。
とはいえ,やっぱなれない人にとっては読み進めるのがしんどい部分もあるかもしれません。特に11章以降は難しそうですね。
そこで近日中に,Osaka.stanを開いてこの本の読書会をやる予定です。全く数学とか駄目,という人は,そこで読み方とか意味とかを説明するので,ガチ文系の人はそちらに来てもらってもいいかと思います。指数,対数,ロジット,とか統計モデリングでフツーに出てくるやつをおさらいしながら読み進めていければと思います。